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「台原森林公園モス・グリーン・アドベンチャー」

実施団体:水魚方式研究会

1学習のねらい

 コケは、日本全国では2,000種くらい。そのうち宮城県にあるのは600種くらい。台原森林公園には100種くらいはありそう。しかし、驚くことに、台原森林公園のコケについての調査は全く行われていないため、正確なことは分からない。これも驚くことだが、宮城県には、コケの研究者が皆無に近く、コケについての正確な知識を非常に手に入れにくい状況にある。東北大学付属植物園、仙台市野草園、仙台市科学館に問い合わせても、「コケについては、答えられる人はいません」という回答が返ってくる。それにも関わらず、子どもたちがコケに気付き、コケと親しくなり、コケが好きになることを目指して、当会が、コケを学習対象にしたこのプログラムを作成した理由は、以下のようなところにある。

(1)コケは美しい・・・
 「京都の苔寺」と聞くと、訪れた経験がなくとも、誰しも「美しい」と感じるだろう。が、道路端に生えたようなコケは、美しいとは思いにくい。美しく思えたり、汚らしく思えたりするコケは、一つ一つが具体的にどういうものの集合なのか。試しに、その一つに目を近づけたり、虫メガネで見てみると・・・。身近にありながら、その小ささゆえに、草や木ほど認識されていないコケのびっくりするような美しさ。それを、ぜひ、子どもたちに知ってもらいたい。

(2)コケは植物の両生類・・・
 コケは、5億年前、水中の緑藻の仲間が初めて上陸した当時の植物の形に近いと言われ、「植物の両生類」とも呼ばれている。普通の草や木が根から吸い上げた水を維管束を通じて全身に送るのに対し、コケには根も維管束もなく、直接、水を体表面から吸収している。水の取り入れ方が異なるせいか、虫メガネで見ると、草や木と微妙に質感が異なる。丁度、ワカメ、アオサなどの海草と普通の草木との中間のような質感である。子どもたちは、普通の草木については、ある程度の知見を持ち、また、海草についてもある程度知っている。その両者に比べ、両者の中間的な存在のコケについては、ほとんど知らないと言っても過言ではない。こういう植物があるのだということを、他の植物と同じくらいには、子どもたちに伝えておきたい。

(3)冬も生き生き・・・
 落葉樹の葉が落ち、森林ががらんと広く感じられる冬季も、コケは変わらず、美しい緑色を呈している。特に雪解けの水をたっぷり含み、胞子が詰まった「サク」を伸ばした初春のコケの生気に溢れた様は、眺めているだけで、その生気が伝わってくる。とかく野外での活動が途絶えがちな晩秋から初春にかけて、自然を知り、自然と親しむきっかけに、コケの学習は適している。

(4)子どもはミラクルワールドが好き・・・
 肉眼で見難いものを虫メガネで見るという行為自体、ミラクルワールドを垣間見るような感じがするせいか、子どもたちに好まれる。それに加え、(1)でも述べたように、コケには、日常生活であまり目にすることのない独特の質感があって、一層、ミラクルワールド的な魅力を提供してくれる。

(5)コケは環境変化の影響を受けやすい・・・
 コケは、構造が単純なことから、環境変化の影響を受けやすく、森林、学校、住宅地など、場の環境によって生育種、生育数などに、かなり分かりやすい違いがある。コケと親しくなり、生えているコケの種類や生え方によって、その場所の環境の良し悪しが分かるようになると、環境をどう良くしていくか? 具体的に考えていけるようになる。

 以上のような理由から、「コケ(moss)」に着目し、その「緑(green)」を「探し、調べ、比較し、楽しみながら、散策路を歩く(adventure)」プログラム、すなわち『モス・グリーン・アドベンチャー』が誕生した。


2学習する内容

A.気にしていなかったような場所にも、コケは生えていることを知る。集合地点のみんなの足元にも、コケがぎっしり。

 

 「コケ」という言葉は、大概の子どもが知っている。では、コケはどんなところに生えているか」と尋ねると、大概の子どもが、その場以外の場所を考える。「そういうところにもあるけれど、台原森林公園のようなところだと、どこにでもある」と植え込みの下などにある何種類かのコケを指摘すると、大概の子どもがびっくりする。



B.大雑把でいいから、コケを他の植物と、区別できるようになる。クリップボードの上にとって、しっかり観察。

 写真左側がコケで、右側が草。質感が異なるので、見ただけで区別がつく場合が多いが、分からない場合には、茎を折り、中の維管束の有無で区別する。また、光合成を行わない地衣類は、緑色をしていないため、これも比較的識別しやすい。


C.一口にコケと言っても、それぞれが、異なった形態を持つ、多様性のある存在ということに気づく。

 

 「コケ」を少し離れて肉眼で見ると、どれも塊で見え、大した相違はないように感じられる。が、一つ一つを虫メガネで見てみると、驚くほどの多様性に富んでいる。それは丁度、草や木を見たとき、ユリの葉、シュンランの葉、クズの葉、またアカマツの葉、イロハモミジの葉、ツバキの葉などが、それぞれ異なっているのと同じであるが、普段目にしていないだけに、それぞれの形の違いを新鮮に感じる。



D.多様な形態に見合った名前を自分で付ける。

 

 実生のスギのような形態のコケには、正式にも「スギゴケ」という名前が付けられているが、見つけたコケに自分なりの名前を付けることで、コケの形態の違いを、自分の中に定着させる。それによって、どのコケがたくさんあるか、他の場所にもあるなどが、認識しやすくなる。また、なるべく多種類のコケを見つけようという動機付けにもなる。



E.コケが斜面に群生している箇所(コケの壁画)では、その状況から、コケの生育条件について考える。

 

 プログラム中には、「コケの壁画I」と「コケの壁画II」の2箇所で、立ち止まってコケの観察をするように設定している。壁画Iは、土の斜面にコケが群生している。土の裂け目から水が染み出している、いないなどの条件で、コケの種類が変わり、微妙な色調の違いがあって、一幅の絵画のような感を呈している。少し離れて見て、何種類のコケがあるか予測してから、近づいて、コケを細かく観察する。

 

 コケの壁画IIは、石組みの隙間を埋めるようにコケが群生している。少し離れて見ると、ただ1〜2種類のコケのみのように見えるが、丁寧に観察すると、次々、違う種類のコケが見つかる。コケの形態の多様さ、美しさが分かるにつけ、だんだん、新しいコケを見つけることに夢中になる。




F.コケネーミング大賞の決定。

 

 ワークシートに、「コケネーミング大賞」の欄が設けてある。自分が付けた名前の中で、コケの形態と一番よく合っていると思うもの、愉快な名前などを、自分のネーミング大賞にする。お互いに発表しあうことで、その日の活動の共有、振り返りが行える。



G.多様なコケが生えているとは? コケも生えない環境とは? など、他の場所のコケについても関心が広がるように締めくくる。

 このプログラムで学習したことで、コケに対する感じ方が変わったかどうか? 学校や家の近所にも、台原森林公園と同じように多種類のコケが生えていると思うか? などを話題にする。ワークシートには、『学校や家のまわりのコケさがし』『コケをしらべて、わかったこと』のページが設けてあり、継続して、環境の違いによるコケ相の違いについて学習しやすくしている。また、自由研究などで継続して、コケをある程度専門的に調べたい子どものために、台原森林公園に多いコケ20種を選び、専門家に依頼して同定してもらった。その名前は、台原森林公園のコケリストに掲載している。

3学習のポイント

 自然に関心を持つきっかけは、人さまざまだが、自然に対する何らの知見も愛着心もなしに、「自然が美しい!」、「何かヘン!」などと感じることも、「守っていこう!」「変えていこう!」 と考えることも難しい。自然は複雑に絡み合い、多様性に富んでいるため、自然との付き合いには、長い時間を要する。
台原森林公園は、60ヘクタールに及ぶ公園敷地内に自然林が残され、アクセスが容易で危険箇所も少なく、子どもたちの自然学習に適している。また、グリーン・アドベンチャー システムがあって、散策路に沿った樹木50種を選定して説明版を設置し、樹木学習の便宜が図られている。
 コケは、根もなく、環境変化を受けやすいため、樹木のように、説明版などの設置は不可能だが、子どもたちの学習の便宜を図るため、先にも記した台原森林公園のコケリストに掲載してある20種の正式名リストや図鑑類を参考に、少しずつでも、台原森林公園のコケについての関心が広がり、コケも含めて自然のあり方、ひいては地球環境を考える契機になればと願っている。

4学習のまとめ

 台原森林公園でコケに親しみ関心を持った眼で、学校、近所などのコケを見ると、コケの多様性の多少から、環境の違いを実感できる。台原森林公園と比べれば、格段に貧相な道路端などのコケを眺めていると、その状態が地球全体に及ぶことへの懸念と、道路端を含む家のまわりを、もう少し命を育みやすい状況に変えられないだろうかとの思いが生じてくる。
 ワークシートでは、『コケをしらべて、わかったこと』のページを設け、「いろいろな種類のコケが、たくさんある場所がある。たとえば・・・」「コケがまったくない場所がある。たとえば・・・」など、記入欄を設けることで、環境によるコケの多様性の違いなどにも気づいてもらいやすくしてある。
 コケは、さまざまな場所で見ることができる植物であるため、一度「コケ」という目で見始めると、自然に対する関心が広がりと奥行きを持ってくる。当会自体が、このプログラム作成を通じ、半年くらいの間に、いくつかの変化を体験している。例えば、台原森林公園のコケの観察を始めた頃には、一摘まみのコケのサンプルを持ち帰ることに、全く抵抗を感じなかった。落ち葉、落ちた木の実などは別にして、動植物の採集を禁じ、「植物でも生き物でも、それがそこにある状態を楽しむ。見たければ、そこに行って見る」を原則にしてきたにも関わらず、コケだと、「コケくらい」という感じになっていた。それが、コケを見慣れ、よく見るコケ、あまり見ないコケ、台原森林公園の散策路沿いでは、ここにしかないコケなどと判別できるようになってくると、少なくとも「ここにしかないコケ」「少ししかないコケ」などの採集は、以ての外という感じになっている。
 また、これまでにも、しばしば行っている川の上流部などで、思いがけずたくさんのコケを見てびっくりするのだが、それは、当然ながら、急にコケが増えたのではなく、それだけ、こちらにコケに対する感受性が増したということだろう。自然との付き合いは、今日分かって明日から即座に変化という性質のものではないが、今日何かが分かったからこそ、何らかの可能性、発展性を、明日に繋いでもいけるのだと考えている。
 5億年の昔、地球環境が現在のようになるための最初の一歩は、コケの仲間が行ったのだが、現在の地球環境においてコケが果たしている役割は何だろうか。植物研究におけるコケ研究の現状などを見る限り、「コケが地球環境に多大の役割を果たしている」と考えられてはいないらしいのだが。いつか、そんなコケに対する見方が大きく変わり、コケあってこそ、健全な地球環境もありうると考えられる日が来るのではと、少なくとも、当会では考えるようになっている。
 この台原森林公園での観察をきっかけに、コケの興味深さに気づき、例えば自由研究などで、継続してコケの観察をしてくれる子どもたちの出現に期待している。



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